「『夢みる機械』班が選ぶ映画100」を観終わった

 13年も前の話だが、今敏監督のブログで「『夢みる機械』班が選ぶ映画100」という記事を読んだ。

KON'S TONE:「夢みる機械」班が選ぶ映画100・前編
KON'S TONE:「夢みる機械」班が選ぶ映画100・後編

 『夢みる機械とは監督が当時制作中だった作品名で、記事では古今東西の実写映画100本がリストアップされている。その記事が出た少し後に、監督は46歳の若さで、病気で亡くなってしまった。その映画リストは、監督が余命宣告を受けた後に遺したものだった。まさに置き土産だ。

 これを2年ぐらいで全部観終えた人をTwitterで見かけて「凄いなあ、自分もやってみよう」と真似して観始め、それから十年近くかかってしまったが、先日ついに、100本をすべて観終えることができた!

 100本の中には、何度再生しても途中で眠くなってしまうので、数回に分けて無理やり最後まで観たような映画も少数あったが(すみません)、ほとんどは興味を持って観ることができ、心に響くものだった。自分の好き嫌いに任せていたら、一生観なかったかもしれない名作も多かった(音楽がテーマの映画やコメディなど)。いろんな種類の映像表現が楽しめたと同時に、映画を通して様々な国の文化や歴史に触れることもできた。「人生」を描いた映画(『素晴らしき哉、人生!』『長い灰色の線』など)は、特に心にしみるものがあるなと思った。

 ちなみに、観ていちばん衝撃を受けたのはロバート・アルトマン監督の『ショート・カッツ』でした。

 あと、意外な副産物もあった。通常であれば、御本人が亡くなった時点で、新作を観る機会は失われ、もう新たな刺激を得ることはできなくなるはずだった。ところが、リストにある映画を観ているあいだは、故人である今敏監督からまた新たな刺激を受けているように感じられて、不思議な感覚を味わえた。

 

 100本を観終わって、「達成感はあるけど、今敏監督ともこれで本当にお別れだな。ちょっと寂しいな……」と感じた。そう思いながら、久しぶりに監督のブログを見たら、「親切なお節介」というタイトルで追加の映画リストの記事があった。

KON'S TONE:親切なお節介

 当時読んだはずだけど、もうすっかり忘れていた。嬉しい。また十年ぐらいかかるかもだけど、全部観てみようと思った。今は動画配信サービスも充実しているから、もっと早く観終われるかな。

今月のアニメ雑誌の雑感(2022年11月号)

『月刊Newtype

◆書店で「表紙が華やかだな」と思った。Newtypeの表紙にガンダムの顔があるとホッとする。キャラもいて密度感もあって好き。ちなみに表紙と裏表紙が一対の絵になっていた。

◆「井上俊之の作画遊蕩」、ゲストは前回に続き吉田健一さん。主にキャラクターデザインの話題。キャラクターデザインが際立って個性的な場合、昔のアニメでは統一感ある絵作りが難しかったけど、今はワークフロー次第で可能な時代になっている、だからもっと有っていい、みたいな話が印象に残った。視聴者としても、多様な絵柄であってほしい。

チェンソーマン』、瀬下恵介PDインタビュー。枚数制限をしないでリアルにこだわる、という話を読んで期待が高まった。

サイバーパンク:エッジランナーズ今石洋之監督インタビュー。『Cyber​​punk 2077』のゲーム内の街をまるごと探索してロケハンに使えたので、レイアウトや美術の質の向上に活用できたという話が「AAAタイトルが原作だとそういう恩恵もあるのか!」と思った。あと、普段のアニメでは吉成曜さんの格好いいデザインをボツにしてダサく直させているが、今回はゲームファン向けなので格好いいデザインを採用しているらしい。僕はNetflixに未加入なのでまだ観てないけど、普段の今石作品と若干違う雰囲気なのかなと思った。

◆放送予定表で『Do It Yourself!! どぅー・いっと・ゆあせるふ』の2話以降のスタッフを見ると、笹木信作さん、江畑諒真さん、今岡律之さん、松尾祐輔さんといったお名前があり、ワクワクする。4話は「絵コンテ・演出・作画監督=米森雄紀」と書いてあるけど、お一人で全部を!? 今後の楽しみが増した。

アニメージュ』(dマガジン版)

◆監督が『ペルソナ ~トリニティ・ソウル~』松本淳さんだと知って、少し気になっている新作映画『僕が愛したすべての君へ』。監督インタビューでは、フランソワ・トリュフォー突然炎のごとくをお手本にしたと語られていた。どんな映画なんだろう。

◆キャラクター人気投票のページ。今後は、1読者が2キャラに投票できる仕組みに変わるという告知あり。「投票数が減ってきてるのだろうか!?」と思ったが、「では他誌の人気投票はどういう仕組みなんだろう?」と確認してみると、Newtypeは男性キャラと女性キャラを1人ずつ、計2票投票できる仕組み。アニメディアは1読者が2票投票できる仕組みだった。ということは、むしろアニメージュの1人1票制の方が特殊だったのか。

◆編集後記で、アニメの取材現場に現れる一般誌ライターの良くないふるまいに対する怒りが書かれていた。読者には見えないところで、いろんな苦労があるのかな……。

アニメディア』(dマガジン版)

◆「知ってるようで意外と知らない!? アニメのお仕事」のコーナー、今月は『Do It Yourself!! どぅー・いっと・ゆあせるふ』の「DIY監修」のスワロさん。「意外と知らない!?」どころかまったく知らない仕事である。役目としては、高校生の主人公たちが作りたくなるようなかわいい工作をデザインする作業や、登場人物の工具の習熟度と作るものとのバランスを調整するなど、多岐にわたるようだ。確かにそういう目配りをする専門家は必要そうだなぁと納得。スタッフのDIY体験が作中の描写に活かされているという逸話も印象に残った。

『ラブライブ!スーパースター!! Official Visual Collection I』の感想

 『ラブライブ!』関連の本をたまに買っては、期待した内容と違って「not for meだった!」と落胆するのだが、『ラブライブ!スーパースター!! Official Visual Collection I』は自分好みの絵がたくさん堪能できる本で良かった。

 数名のアニメーターが描いた雑誌や書籍の表紙イラスト、Blu-rayやCDのジャケットイラスト、ライブツアーのキービジュアルなどが90点も収録されている。しかも、掲載サイズが大きいので「たくさん載ってるけど、カタログみたいに絵が小さい!」みたいな不満も無かった。

 キャラクターデザイナーの斎藤敦史さんの筆致が好きで、第1期の5人組のLiella!が好きならば、甘美な魅力にあふれているのでおすすめです。

『作画汗まみれ』の「車というものはない」

 学生時代に大塚康生さんの『作画汗まみれ 増補改訂版』(2001年)を読んで、ルパン三世の企画書に関する次の文章に「なるほど!」と思った。

 企画書の一部はいまだにおぼえています。「車というものはない。それはベンツであり、コロナであり、ブルーバードという名前と固有の形を持った商品であり、機械である。(略)」

大塚康生『作画汗まみれ』より)

 「こういう考え方がアニメを進化させていったのか~!」と。日本のアニメの歴史は、空間にしても人体にしても小道具にしても目の描き方にしても、(良くも悪くも)徐々にあいまいな部分を無くしていった歴史だと自分は思っているが、そういう理解へと至る最初の手がかりを得たのがこの文章を読んだ時だった。

 さて、最近『作画汗まみれ』を久しぶりに読み返して思ったのだが、もしかして「車というものはない」は、「雑草という草はない」という名言をアレンジした言葉だったのかな?

 今年の8月に「雑草という草はない」の史料に関する記事をネットで見かけて、頭の片隅に残っていたので、そんなことを思いました。

 学生時代には「雑草という草はない」という言葉は知らなかったけど、覚悟のススメに出てくる「雑草などという草はない」という台詞は知っていて、とはいえ「車というものはない」からそれを連想することはなかったなぁ。そう考えると、学生時代より今のほうが脳内の言葉と言葉が結びつきやすくなってるのかもしれない。それは、人が中年になるとダジャレを言い始める現象と関係あったりするのだろうか……。

 そんなことを思った。特にオチはなく終わり。

www.kochinews.co.jp

今月のアニメ雑誌の雑感(2022年10月号)

 今月からアニメ雑誌の感想を書くことにします。(といっても、隅々までは読んでいません。自分が気になった記事を読むだけ。)

『月刊Newtype

◆9月6日に、東京オリンピックをめぐる汚職事件でKADOKAWAの元専務らが逮捕されたニュースを観たばかり。なので「KADOKAWAの雑誌はあまり買いたくないなぁ……」という気分が多少あったが、毎月の習慣なので購入。

◆「井上俊之の作画遊蕩」、ゲストは吉田健一さん。今年『地球外少年少女』の記事でも見た組み合わせだったので、他の回の「井上さんとあの人が対談を!?」みたいなサプライズ感は無かったものの、内容は楽しく読んだ。
 吉田さんのスタジオジブリ同期入社である安藤雅司さんへのコンプレックスの話と、単価でなく給料制だと教養を深める時間が取れるという話が面白かった。

◆ふと気づいたのだが、『Newtype』今月号の表2(表紙の裏)、表3(裏表紙の裏)、表4(裏表紙)の広告が、すべてKADOKAWA関係の広告だった。そう意識して眺めてみると、今月号は日本コロムビアの広告が1/3ページあるだけで、それ以外の広告ページはすべてKADOKAWA関係だった。
 昔はビデオ、CD、TVゲーム、書籍、能力開発等、いろんな企業の広告が載っていたけど、時代がすっかり変わってしまったな~と感じた。

アニメージュ』(dマガジン版)

◆「この人に話を聞きたい」、ゲストは丸山正雄さん。丸山さんの仕事を知悉していないとできないような濃密なやりとりで凄い。マッドハウスを途中で抜けた出崎統監督に対する丸山さんの想いなども語られていた。
 100%やりきると次が作れなくなるから、やり残しはあった方がいいという「魅力ある欠陥商品」の考え方が印象に残った。
 リスト製作委員会作成の資料を参考にしたという、みっしりとタイトルが並ぶ作品リストも迫力があった。

荒木哲郎監督の連載で、ゲストの門脇聡さんが、京都アニメーション木上益治さんの話を少しだけしていた。

声優グランプリ』(dマガジン版)

◆普段読まないのだが、「『dマガジン』おすすめ記事」に『ラブライブ!スーパースター!!』Liella!大特集が表示されていたので、チラッと見た。
 Liella!のインタビュー記事で、AIの文字起こしでは不可能な、人間にのみ書くことができる表現がいくつか見られて、そういうのって良いよな~と思った。
 具体的には、

伊達 (恥ずかしそうにおどおど)

 といった表現。それと、珍しい表現だなと思ったのが、

大熊 (大きな声で)えええっっ!?!?

 のように「っ」と「!?」を2つずつ使うところ。取材・文は、松本まゆげさんというかただった。