『100カメ×アニメ 進撃の巨人』の感想

 NHKのドキュメンタリー番組『100カメ』で、TVアニメ進撃の巨人を制作するMAPPAのスタジオに100台の小型カメラを設置し、スタッフに密着するという回を観た。

 これまでも、ジブリ作品や『シン・エヴァンゲリオンといったオリジナル劇場アニメの制作現場を取材したドキュメンタリー番組は時々観たが、今回はマンガ原作のあるTVアニメ。加えて、番組のノリも重々しいタッチではなく、お笑い芸人のオードリーの二人が愉快なコメントをしたり、映像を観て驚いたりしながら進んでいく、登場人物の名前もカタカナ表記という、カジュアルなタッチだった。

 この種の番組を観ていつも印象に残るのが、アニメづくりの大変さ、機材、監督の粘り強さだ。

 まず、アニメづくりの大変さ。進撃の巨人の現場なので、「見るからに大変そうなスペクタクルシーンのメイキングをやるのかな?」と想像していたが、むしろ、どんなシーンを作るのも楽じゃないんですよという方向性だった。本編の放映前だから、本当の見せ場は温存しておこうという配慮なのかな。とはいえ、目立たない苦労に目を向けることも大事だと思う。何度も消しては描き直すアニメーターたち、3DCGに2500本以上の質感の線を描き足すカネコさん、締め切り間際に遠方のアニメーターに振り回される制作進行の様子が印象に残った。

 次に機材。昔からこの手の番組を観ては、「描いた動きをクイックアクションレコーダーという機械で確かめるのか~」とか驚いていた。今回は、表情やポーズの参考用の自撮りをiPhoneで撮っては描きを繰り返すミッシェルさんの姿が印象に残った。となりのトトロのキャプチャ画像で表情を参考にする様子まで映像に入るのは、正直だなと思った。

 また、スエザワさんがYouTubeでムカデの動きを観察するアプローチも今風だなと感じた。でも、実物のムカデを観て描かれた画なのに、ハヤシ監督がさらに有機的な「それらしさ」を修正で足してきて、画面に魂が宿る過程も見れて面白かった。

 監督が仕事する様子も「伝聞では知っていたけれど、iPadを使う作業風景とはこういう感じなのか~」と興味深く観た。絵コンテを描く場面では「Procreate」が使われていて、原画をチェックする場面では「CLIP STUDIO PAINT」が使われていた。全体的に、現場にデジタルが浸透した時代の空気を感じることができる番組だった。

 最後に、監督の粘り強さ。感情表現に深みを増すようなリテイク指示を出す、監督の鬼気迫る表情が印象に残った。リテイク率8割という。「どう観てもこれは変でしょ…」と感じるようなCG素材まで監督に回っていたので、チェックの機会をなるべく増やして完成度を上げていくワークフローなのかな?とも思った。修正指示に描かれた参考の画が説得力に満ちていて、監督のチェックが進撃の巨人の画面づくりにいかに貢献しているのかが伝わってきた。

 番組全体の組み立ての面では、アニメというと絵描きが注目されるけれども、制作の人たちにもかなりスポットが当たっていたのが記憶に残った。作家性あふれる「オリジナル劇場アニメ」の秘密に迫るドキュメンタリーとはまた違った切り口で、原作のあるTVアニメを集団で作り上げていく制作現場の雰囲気が感じられて面白かった。もっといろんなアニメや、いろんなスタジオに密着したドキュメンタリー番組を観てみたいと思った。

 

(2023年2月23日(木・祝)NHK総合にて、21:30~22:00に放送)

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