「第6回アニメレビュー勉強会」提出原稿

7月7日に、アニメ評論家・藤津亮太さん主催のイベント「アニメレビュー勉強会」に参加しました。参加したのは、第1回、第2回以来で3度目。

藤津亮太の「只今徐行運転中」:第6回アニメレビュー勉強会、告知です - livedoor Blog(ブログ)

 

今回の課題アニメは、『ランゴ』と『銀河鉄道の夜』の2本。

僕は3DCGアニメの知識に疎いので、原稿執筆をきっかけに少し勉強しようと思って『ランゴ』の方を選びました。(結果、点数順で3位でした)

 

<提出原稿>
タイトル:『ランゴ』レビュー

 

 ――「我々の敵は、人間でもシステムでもない。平凡なことだ」ゴア・ヴァービンスキー(『THE BALLAD OF RANGO』)

 

 新鮮な風は、常に外から吹き込んでくるものだ。

 『ランゴ』は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』を手がけたゴア・ヴァービンスキー監督が、慣習に縛られない映像づくりに挑んだアニメ映画だ。

 その野心的な試みを実現するため、彼は映画界のしがらみを絶ち、自身のスタジオ「blind wink」でイメージを磨き上げた。初挑戦のアニメ映画。主人公は、リアルな質感のカメレオン。アニメでは感情表現の要となる「瞳」も異例の小ささだ。脇役は、黒ずんでツヤの無い砂漠の動物たち。テーマは自己実現。声優に衣装を着せ、実際に演技させるレコ―ディングのアイデア等々。

 彼は、2Dのストーリー・リールを仲間たちと作り上げ、世界最高峰の映像工房「ILM」に持ち込んだ。そして誕生したのが、長編3DCGアニメ『ランゴ』である。

 

 ストーリーはこうだ。アメリカ、灼熱のモハーヴェ砂漠に、今なお西部開拓時代の伝統を受け継ぐ動物たちの街があった。そこに現代っ子のカメレオンが迷い込む。「俺は西部出身の腕利きガンマン・ランゴだ(ウソ)!」偶然が重なって保安官に任命された彼は、日照り問題に揺れる住民の期待を背負い「水」の探索に奔走する。しかし、西部のガンマン「死神ジェイク」(本物)が街に現れた日、彼の欺瞞は白日の下にさらされる。「あなた、本当は何者なの?」「うう……」信用を失い、心をズタズタに引き裂かれた彼は砂漠へと消えていく。カメレオンと街の運命は、一体どうなってしまうのだろう!? あなたはどうなると思う?

 

 この後の展開に如実に表れるのだが、本作は単なる娯楽映画ではない。おちゃらけたカメレオンが、英雄に生まれ変わる叙事詩映画だ。そして、それは映画冒頭からここへと至る軽いノリの中にも、メタファーによって表現されている。ディティールに注目すると、神話的物語が浮かび上がる。そんな作りが、本作の大きな魅力となっている。

 どういうことか? 実際に、冒頭の10分間を見てみよう。

 

 ファーストカット。哀愁を帯びたカントリー調の楽曲「ランゴのテーマ」に乗せて、「RANGI」という文字列が現れる。直後、銃声が轟くと、弾丸が右端の「I」を穿つ。文字列は「RANGO」に変わる。一発の弾丸が「I(=私)」に変化を及ぼし「ランゴ」が誕生する、そんな内容にふさわしいタイトルカットだ。(ちなみに、干上がった街を救う男の名が、アメリカ西部の街「Durango(水の街という意味)」に由来する点も気が効いている!)

 

 本編の幕が開く。一匹のカメレオンが、狭い水槽の中で、仲間たちとシェイクスピアの『十二夜』を上演している。と言っても、仲間たちは水槽用のアクセサリや虫の死骸といった無生物。なんとも孤独な演劇である。カメレオンの役柄は、男装の貴人シザーリオ。つまり、男に扮した女を演じるオスのカメレオン、それが初登場シーンにおける彼の立ち位置だ。誰かを演じることは得意だが、仮面を被りすぎて、その下の素顔が希薄なカメレオン、そんな彼にピッタリの役柄である。

 さらに言えば、『十二夜』はキリスト顕現日(クリスマスの12日後)前夜の祝宴を描いた作品と言われており、本作で街の救世主となる男が、その前段に演じるにふさわしい演目といえる。

 

 水槽の中の世界は、彼を除いて皆プラスチックのような質感で、すべてがカラフルだ。その様式は、CGアニメの王者・PIXARが89年に制作した『ニックナック』を連想させる。『ニックナック』は、シェルフに飾られた旅行土産たちの物語だ。PIXAR作品の中でも、際立って記号的なキャラクターが登場する短編として知られる。それに似ている水槽の中の世界は、要するに、観客が思い描くオーソドックスな3DCGアニメのビジュアルではないだろうか。その水槽は、突然のアクシデントによって粉々に破壊され、カメレオンは外の世界に降り立つ。(ちなみに本作の「水槽」は人生を取り囲む檻のメタファーだが、その崩壊は劇中で2度描かれる。その点にも注目だ!)

 

 ここまでで冒頭10分。主人公の旅立ちと共に、古典的な作劇やオーソドックスなアニメビジュアルとの決別を暗に表明し、新機軸の3DCGアニメワールドへと突入していく。

 この後、カメレオンがたどり着く街には、銃の得意な者が大勢いる。しかし、彼らは街を襲う「水」問題を解決できない。ランゴは西部劇ヒーローの素質には欠けるが、迷信から自由かつ現代社会からやってきた者だからこそ、街で大きな仕事を果たすこととなる。

 枠組みの外から来た者が、新たな道を示す。その点において、劇中の物語と、このアニメそのものの有り様は重なり合う。本作の観客は、カメレオンの自己実現を見守ると共に、1人の映画監督の再生にも立ち会うことになるのだ。

 (想定媒体:映画雑誌)

 

<原稿に関する説明>

・作品の成立ちの解説は、BD収録のメイキング映像、書籍『The Ballad of Rango: The Art and Making of an Outlaw Film』、海外サイトの監督インタビューなどを参考に書きました。

 

・事前に、WOWOWオンラインで町山智浩氏による解説動画を観ていたため、内容が被らないように意識しました。そのため、本来押さえておくべき情報まで抜いてしまったり、省略しすぎて(読者と筆者の間にある、知識の落差を埋め忘れて)意味不明な部分がある、というのが反省点です。

町山智浩の映画塾!#76 「ランゴ」<予習編> 

町山智浩の映画塾!#76 「ランゴ」<復習編>

 

・もともと作文が苦手なので、過去に参加した2回分では、迷走して風変わりな原稿になってしまいました。今回は 『大学生・社会人のための言語技術トレーニング』を参考に、基本的な小論文の書き方に従う努力をしました。