最近WEB記事で読んだ押井守監督のレイアウト集の話

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この記事を読んで、押井守監督のレイアウト集の話が気になった。

私の作品でも『攻殻攻殻機動隊)』あたりはほぼなくなっているし、『パトレイバー機動警察パトレイバー)』なんてもう影も形もない。個人的にどうしても保存したくて出版社を口説き落として出してもらったレイアウト集があるだけ。

この「レイアウト集」は、『METHODS 押井守パトレイバー2」演出ノート』のことかと思うのだけど(※違ったらすみません)、同書あとがきの押井さんの言葉を読み返すと、出版の経緯に関して違うことが書いてある。

昨今のメディアミックスやらマルチメディアやらの風潮で、資料集やムック本の類いは数多く出版されるようになりましたが、いずれも現場で作業する人間の目には不満の多いもので、いつか自分で手掛けてみたいと思いつづけていたところ、無謀にも本格的な資料集を出版したいという申し出があり、一も二もなく飛びついた結果出来上がったのが本書という訳です。

(『METHODS 押井守パトレイバー2」演出ノート』より)

「個人的にどうしても保存したくて出版社を口説き落として出してもらった」「無謀にも本格的な資料集を出版したいという申し出があり、一も二もなく飛びついた」では、かなり違った印象を受ける。実際のところは知らないけれど、もしかしたら、出版の申し出を受けたあとに、「資料集」から「レイアウト集」という方向に持っていくために出版社を口説き落とす場面があったのかな、と読みながら想像した。

作品や制作素材が残らず、消えていくのはつらいというWEB記事での主張には共感するし、押井守監督の言うように作画やアニメーターももっと評価されてほしいとも思う。それと同じように、「無謀にも本格的な資料集を出版したいという申し出」をした人の存在だって忘れてはいけないと思う。あのWEB記事を読んだだけだと、そういう存在は見えづらいと思ったので、ちょっと気になってこのブログ記事を書いた。ちなみに、『METHODS』の押井さんのあとがきには、編集者の野崎透さんへの謝辞が書かれている。

今月のアニメ雑誌の雑感(2023年4月号)

『月刊Newtype

◆「新房昭之のあの人とヒミツの話」。ゲストの倉田英之さんが「買うことに対する悩みがない。本も映画も自分で作ったら莫大なお金がかかる。その点、制作費10億円の映画の映像ソフトを5000円で分けてもらえるなら安い」みたいな話をしていて、僕には無い考え方だったので印象に残った。僕は買うことに対する悩みはあるなぁ。

◆新作映画紹介コーナー。ガイガン山崎さんが、スティーブン・スピルバーグ監督の自伝的映画『フェイブルマンズ』について書いていた。僕は既に鑑賞済みで「これはぜひ解説を読みたいけど、モンスターが出てこないから、ガイガンさんは書かないんだろうな」と思っていたので、予想が外れて嬉しかった。「こういう瞬間が描かれる」という文章を読んで、「ああ、漠然と受け取っていたけど、言葉で整理してみれば確かにそうだ!」と理解が深まった。

◆「井上俊之の作画遊蕩」。ゲストは『たてなか流クイックスケッチ』でもおなじみの立中順平さん。記事中でも「実は会ったことは一度しかなくて」と語られていたけど、見るからに珍しい組み合わせ。僕はディズニー作品に対する興味が薄いので、本質的なことはほとんど受け取れていないと思うけど、それでもこういう試みが行われる「雑誌の良さ」と、立中さんに幅広い知識で切り込んで話を引き出すインタビュアーとしての井上さんの凄さが味わえた。

花澤香菜さんの連載で「デビュー20周年」という言葉をチラッと見かけて、「20周年!」と素直に驚いた。

◆脚本家の小太刀右京さんが、復刻版の逆襲のシャア 友の会』に言及していて、入手性が高まることって大事だなと思った。

アニメージュ』(Kindle版)

「設定資料FILE」は『お兄ちゃんはおしまい!』。ちょっと模写してみたくなる画。表情集がお腹の辺りまで描いてあって服を着ていないのだが、胴体が「生々しい肉体!」と言うよりは「素体」的な印象を受けるのは如何なる線の作用によるものなのだろうと思った。あと、今月号は、奥付に前Qさんの名前があって珍しいなと思ったのだが、Twitter情報によると、この記事のテキスト類の担当とのこと。

『ストップ!!ひばりくん!』第9話

 U-NEXTでストップ!!ひばりくん!梅津泰臣さんの作監回を観ていたら、劇中で小学生男子が使う勉強ノートに「幻マ大戦」と書いてあった。で、「ああ、ちょうどアニメ界で幻魔大戦が話題になった時代だったのかな?」ぐらいに思ったのだけど、WEBで梅津さんのインタビューを読んだら印象が変わった。

そのうち、「ストップ!! ひばりくん!」(1983年)で作監に抜擢されたんです。当時まだ23歳ぐらいでしたから、先輩たちにやっかまれて「出る杭は打つ」みたいなことを言われました(笑)。当時の東映動画は実写映画の世界と同じように、職人気質の人が多かったんです。それで、ちょっと居心地が悪くなってきたころに「幻魔大戦」(1983年)の情報を聞いて、この大友克洋さんのキャラクターなら、ぜひ描いてみたいとマッドハウスへ移籍しました。

新作アニメ作品を制作中の梅津泰臣が語る「これまで」と「これから」【アニメ業界ウォッチング第85回】 - アキバ総研

 

 これを読んで、「当時、他社作品の劇中に文字で登場させてしまうぐらい、幻魔大戦の情報に心を奪われていたのだろうか!?」と想像がふくらんでしまった。いや、もちろん、この回の別のスタッフが書いた文字という可能性もある。ただ、その「幻マ大戦」の上に「うめつやすおみ」「てらさわしんすけ」と書いてある。ネット情報によると寺澤伸介さんは梅津さんと交流のあったアニメーターの名前のようだが、エンドクレジットを見るとこの回には参加していない。そう考えると、やはり梅津さんが遊びで思いつくままに書いた文字なのかな、と思った。

 場面的にも、小学生男子がひばりくんに一目惚れしてしまって、心を奪われて、頬杖ついてハートマークが出まくっている場面なので、視聴者の勝手な感想(妄想)としては「もはや、ひばりくんに憧れる小学生男子の姿と『幻魔大戦』に憧れる人の姿がダブって見える…!」と思った。

 ちなみに勉強ノートの反対側のページには、「ガッチャマン」と「女子高生大好き」と書いてある。タツノコプロ作品に思い入れのあった梅津さんが、のちのち科学忍者隊ガッチャマンのリメイクOVAに参加したり、女子高生が主人公のアニメを監督してタランティーノ監督のキル・ビルに影響を与えたりする未来の出来事のことを思うと面白い。

昔スタジオディーンのサイトにあった西村純二さんのコラム

 人と逮捕しちゃうぞ the MOVIE』の話をしていた時に、「昔、スタジオディーンのサイトに、西村純二監督の制作日記的なコラムがあったんですよ!」「へえ〜知らなかった!」という話になった。「こういうことを若者に伝えるのも、わしら古老の務めか…」と思ったので、インターネットアーカイブのURLの記録を残しておきます。西村純二さんのファンは読むとよいでしょう。

https://web.archive.org/web/20010422173227fw_/http://www.deen.co.jp/taiho/kantoku/noumiso.html

【『監督の脳味噌』リスト】

  • 第1回    開設に寄せて 1998年06月01日
  • 第2回    幻のプロット 1998年06月15日
  • 第3回    墨田区墨東病院 1998年10月05日
  • 第4回    口パクとウクレレ 1998年10月09日
  • 第5回    さて、東京タワー 1998年10月12日
  • 第6回    東京タワーと御詫び・・ 1998年10月17日
  • 第7回    東京タワーの続きから・・ 1998年10月26日
  • 第8回    で、ウクレレですが。 1998年11月02日
  • 第9回    東海林登場前夜 1998年11月16日
  • 第10回    閑話休題 1998年11月27日
  • 第11回    夏の終わり 1998年12月06日
  • 第12回    久々の更新です。 1999年01月19日
  • 第13回    三月末の試写会に向けて冥府魔道を駆け抜ける 制作現場からの実況報告(・・・前夜その1) 1999年02月06日
  • 第14回    三月末の試写会に向けて冥府魔道を駆け抜ける 制作現場からの実況報告(・・・前夜その2) 1999年02月14日
  • 第15回    ホントに修羅場で書込出来ずにすいません【修羅からの脱出 その1】 1999年04月13日
  • 第16回    修羅からの脱出 その2 1999年04月17日
  • 第17回    公開直前、日本ユース決勝進出! 1999年04月22日
  • 第18回    初日の舞台挨拶の事とか 1999年04月25日
  • 第19回    みなさんへの幾つかの回答も込めて 1999年04月25日
  • 第20回    TBSホールでのイベント 2000年06月22日
  • 第21回    レアカードで安比高原 2000年09月04日
  • 第22回 劇場版地上波オンエアのこと 2001年01月01日

『100カメ×アニメ 進撃の巨人』の感想

 NHKのドキュメンタリー番組『100カメ』で、TVアニメ進撃の巨人を制作するMAPPAのスタジオに100台の小型カメラを設置し、スタッフに密着するという回を観た。

 これまでも、ジブリ作品や『シン・エヴァンゲリオンといったオリジナル劇場アニメの制作現場を取材したドキュメンタリー番組は時々観たが、今回はマンガ原作のあるTVアニメ。加えて、番組のノリも重々しいタッチではなく、お笑い芸人のオードリーの二人が愉快なコメントをしたり、映像を観て驚いたりしながら進んでいく、登場人物の名前もカタカナ表記という、カジュアルなタッチだった。

 この種の番組を観ていつも印象に残るのが、アニメづくりの大変さ、機材、監督の粘り強さだ。

 まず、アニメづくりの大変さ。進撃の巨人の現場なので、「見るからに大変そうなスペクタクルシーンのメイキングをやるのかな?」と想像していたが、むしろ、どんなシーンを作るのも楽じゃないんですよという方向性だった。本編の放映前だから、本当の見せ場は温存しておこうという配慮なのかな。とはいえ、目立たない苦労に目を向けることも大事だと思う。何度も消しては描き直すアニメーターたち、3DCGに2500本以上の質感の線を描き足すカネコさん、締め切り間際に遠方のアニメーターに振り回される制作進行の様子が印象に残った。

 次に機材。昔からこの手の番組を観ては、「描いた動きをクイックアクションレコーダーという機械で確かめるのか~」とか驚いていた。今回は、表情やポーズの参考用の自撮りをiPhoneで撮っては描きを繰り返すミッシェルさんの姿が印象に残った。となりのトトロのキャプチャ画像で表情を参考にする様子まで映像に入るのは、正直だなと思った。

 また、スエザワさんがYouTubeでムカデの動きを観察するアプローチも今風だなと感じた。でも、実物のムカデを観て描かれた画なのに、ハヤシ監督がさらに有機的な「それらしさ」を修正で足してきて、画面に魂が宿る過程も見れて面白かった。

 監督が仕事する様子も「伝聞では知っていたけれど、iPadを使う作業風景とはこういう感じなのか~」と興味深く観た。絵コンテを描く場面では「Procreate」が使われていて、原画をチェックする場面では「CLIP STUDIO PAINT」が使われていた。全体的に、現場にデジタルが浸透した時代の空気を感じることができる番組だった。

 最後に、監督の粘り強さ。感情表現に深みを増すようなリテイク指示を出す、監督の鬼気迫る表情が印象に残った。リテイク率8割という。「どう観てもこれは変でしょ…」と感じるようなCG素材まで監督に回っていたので、チェックの機会をなるべく増やして完成度を上げていくワークフローなのかな?とも思った。修正指示に描かれた参考の画が説得力に満ちていて、監督のチェックが進撃の巨人の画面づくりにいかに貢献しているのかが伝わってきた。

 番組全体の組み立ての面では、アニメというと絵描きが注目されるけれども、制作の人たちにもかなりスポットが当たっていたのが記憶に残った。作家性あふれる「オリジナル劇場アニメ」の秘密に迫るドキュメンタリーとはまた違った切り口で、原作のあるTVアニメを集団で作り上げていく制作現場の雰囲気が感じられて面白かった。もっといろんなアニメや、いろんなスタジオに密着したドキュメンタリー番組を観てみたいと思った。

 

(2023年2月23日(木・祝)NHK総合にて、21:30~22:00に放送)

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