李白の詩が書かれたLDジャケットイラスト

 部屋が殺風景なので「レーザーディスクのジャケットでも壁に飾ってみるか!」と思い立ち、『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』の第6巻を用意したところ、イラストの背景に並ぶ漢字が気になった。これは単なる装飾なのだろうか? それとも何か意味があるのかな?

 早速、中国のSNSウェイボーで漢字の意味を尋ねてみたところ、これは李白の詩「戦場南(せんじょうなん)」であると教わった。

 漢詩の本とイラストを照らし合わせてみると、確かに、人物群の両側に並ぶ「備胡處漢」「啄人腸銜飛」の文字が合致する。加えて、ムック本に収録されている同イラストの縦長のもの(LDジャケットより広い範囲の漢字が見える)でも合致していた。というわけで、李白の「戦場南」の引用とみて間違いなさそうだ。

 このOVA第6巻は1995年発売、約30年前の作品である。それでも、まだまだ初めて知ることがあるとは面白い……!(いや、単に僕が知らなかっただけかもしれないけど)

 「戦場南」は、長い戦争に疲弊した将兵の姿や、戦場の悲惨さを描いた詩である。また、軽々しく武器を使うべきでないという反戦的な想いが込められた詩であるようだ。
 それを踏まえてジャケットイラストを改めて見ると、どなたの発想でこの詩が引用されたのかは分からないが、激戦が続く物語終盤の展開とかけ離れた内容ではなく、教養ある作り手の存在に思いを馳せることとなった。

 

(以下、『世界古典文学全集27 李白』P.82~83)

戦場南
去年戰桑乾源
今年戰葱河道
洗兵條支海上波
放馬天山雪中草
萬里長征戰
三軍盡衰老
匈奴以殺戮爲耕作
古來唯見白骨黄沙田
秦家築城備胡處
漢家還有烽火燃
烽火然不息
征戰無已時
野戰格鬪死
敗馬號鳴向天悲
烏鳶啄人腸
銜飛上挂枯樹枝
士卒塗草莽
將軍空爾爲
乃知兵者是凶器
聖人不得已而用之

城南に戦う
去年 桑乾河の源で戦争があったばかりなのに
今年もまた葱嶺河の道で戦争だ
条支の海の波で武器の血のりを洗い
天山の雪でおおわれた草原に馬を放つ
長い戦争で万里の行軍を続け
三軍の将兵はみな老けこみ衰弱する
敵の匈奴は人殺しをまるで田を耕すことのように心得
白骨を黄いろい砂田の上に見ることなど昔から平気だ
秦の始皇帝は万里の長城をきずいて蛮族の南下を防いだ
だが漢の時代になってまたそこにのろし火が燃え辺境の急を告げる
のろし火は燃えてやまない
戦争も終わるときがない
野に戦い組打ちして死ぬ
主人を失った馬が天に向かっていななく声は悲しい
からすやとんびが人間のはらわたをついばみ
口にくわえて飛び枯れ木の枝にひっかける
士卒は草むらの中で野たれ死にし
将軍のやったことはじつに無意味であった
そこで武器というものはたしかに凶器であることがわかる
聖人はやむをえない場合にだけ仕方なしにそれを用いるのだ

『魔法少女にあこがれて』第7話

 前期、マジアアズール(主人公の敵)のエロいシーンを期待して観続けたと言っても過言ではない『魔法少女にあこがれて』(以下『まほあこ』)ですが、その第7話。過去の場面で、幼少時の主人公がアニメを観る描写があった。

 その劇中アニメでは、怪物から逃げる人たちの姿と動きが、リピートする省力的な作画で描かれ、「昔のアニメ」であることが強調されていた。

 それで思い出したのは、90年代に観た『機動戦艦ナデシコ』第3話の劇中アニメ『ゲキ・ガンガー3』と、さらにさかのぼって『新・天地無用!』第11話の劇中アニメ『宇宙警察ポリスマン』でも「昔っぽさ」の演出として似た見せ方が用いられていたことだ。

 

 (この2つは大畑清隆さんの絵コンテ・演出回)

 Twitterでも同じものを連想したという感想をいくつか見かけた。ただ、確かに似てはいるのだけど、自分にとっては大きく違うのである。どこが違うのか。

 画像を見れば分かるように、『ゲキ・ガンガー3』『宇宙警察ポリスマン』では逃げる一人ひとりに関して、顔の向きや腕の位置などを少しずつ変える芸の細かさがあるのだが、『まほあこ』では同じポーズのコピペが並んでいるのだ。

 

 そのため、初見時には「いくら昔のアニメだからって、これはさすがに無いのでは……」と呆れてしまった。

 構図は違うが、『鉄腕アトム』(1963)の第1話にも逃げる群衆をリピートで表現したシーンがあったけど、その時代ですら、露骨な手抜きに感じさせないような工夫はあった。あとはなんだろう、『こどものおもちゃ』第90話の巨大ヒーロー物パロディ回で逃げる人たちの姿も、やはり全員が同じポーズではなかった(断片的なアニメ知識)。

 

 ただ一方で、僕も「昔のアニメ」に詳しくはないので、ちょっと調べてみるか……と、手探りで「人が逃げていそうな場面」を探してみた。その結果、『まほあこ』に似た表現を、とりあえず1つ見つけることができたのである。(探せばもっとあるかも)

 『超合体魔術ロボ ギンガイザー』(1977)第25話。

 完全に同じポーズの人が並んでいる……!!

 こうして『まほあこ』劇中アニメの第一印象「昔とはいえ、いくらなんでもこれは無いだろう」は覆されたのだった。

 

 以上、まとめると、マジアアズール(主人公の敵)のエロいシーンを期待して『魔法少女にあこがれて』を観続けた結果、意外にも新たな学びを得た、というお話でした。

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『ストップ!!ひばりくん!』第9話

 U-NEXTでストップ!!ひばりくん!梅津泰臣さんの作監回を観ていたら、劇中で小学生男子が使う勉強ノートに「幻マ大戦」と書いてあった。で、「ああ、ちょうどアニメ界で幻魔大戦が話題になった時代だったのかな?」ぐらいに思ったのだけど、WEBで梅津さんのインタビューを読んだら印象が変わった。

そのうち、「ストップ!! ひばりくん!」(1983年)で作監に抜擢されたんです。当時まだ23歳ぐらいでしたから、先輩たちにやっかまれて「出る杭は打つ」みたいなことを言われました(笑)。当時の東映動画は実写映画の世界と同じように、職人気質の人が多かったんです。それで、ちょっと居心地が悪くなってきたころに「幻魔大戦」(1983年)の情報を聞いて、この大友克洋さんのキャラクターなら、ぜひ描いてみたいとマッドハウスへ移籍しました。

新作アニメ作品を制作中の梅津泰臣が語る「これまで」と「これから」【アニメ業界ウォッチング第85回】 - アキバ総研

 

 これを読んで、「当時、他社作品の劇中に文字で登場させてしまうぐらい、幻魔大戦の情報に心を奪われていたのだろうか!?」と想像がふくらんでしまった。いや、もちろん、この回の別のスタッフが書いた文字という可能性もある。ただ、その「幻マ大戦」の上に「うめつやすおみ」「てらさわしんすけ」と書いてある。ネット情報によると寺澤伸介さんは梅津さんと交流のあったアニメーターの名前のようだが、エンドクレジットを見るとこの回には参加していない。そう考えると、やはり梅津さんが遊びで思いつくままに書いた文字なのかな、と思った。

 場面的にも、小学生男子がひばりくんに一目惚れしてしまって、心を奪われて、頬杖ついてハートマークが出まくっている場面なので、視聴者の勝手な感想(妄想)としては「もはや、ひばりくんに憧れる小学生男子の姿と『幻魔大戦』に憧れる人の姿がダブって見える…!」と思った。

 ちなみに勉強ノートの反対側のページには、「ガッチャマン」と「女子高生大好き」と書いてある。タツノコプロ作品に思い入れのあった梅津さんが、のちのち科学忍者隊ガッチャマンのリメイクOVAに参加したり、女子高生が主人公のアニメを監督してタランティーノ監督のキル・ビルに影響を与えたりする未来の出来事のことを思うと面白い。

「藤津亮太のアニメの門チャンネル【会員枠】『理想のアニメ原画集を求めて』を振り返る!」に出た

 藤津亮太さんのメルマガ終了(動画メインの活動への移行)に伴い、水池屋さんによる原画集レビュー連載も最終回を迎えました。それで、2021/01/08(金) 22:30から、連載を振り返る生放送に水池屋さんと一緒に出ました。
 5年間も定期的に作業し続けたので、それが無くなるのは寂しいですね。

【参考】原画集レビュー連載『理想のアニメ原画集を求めて』リスト

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<放送内容>
・2人はどのようにして出会ったのか
・連載開始の経緯
(【参考】みんなが好きな原画集とは? - Togetter
・原稿を作る上で、2人の間でどういうキャッチボールがあったのか
・取り上げる本はどう選んだのか
・作業ペースはどうだったのか
・コロナ禍、コミケ中止の連載への影響
・ピンチはあったのか
・連載を振り返ってお気に入りの回、印象的な本
・藤津さんの助言「大事なことは何回も書いた方がいい」
・業界の変化と井上俊之さんの本
・連載初期をまとめた同人誌の反響
・連載全部をまとめたKindle版同人誌を計画中
・電子書籍のE-SAKUGA、Blu-ray映像特典の原撮やプリビズについて
・連載を終えてみての感想

『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』第7話の移動シーン

 最近、まんだらけオークションで『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』第7話Aパート後半の絵コンテを購入した。僕が第7話で特に好きなのはBパートのほうで、そちらも以前に出品されたのだけど、その時は入札し忘れてしまった。今でも後悔している。

 さて、今回入手したパートで好きなシーンは、岩に半身埋まった「素晴らしきヒィッツカラルド」を「マスク・ザ・レッド」が始末したあと。歩み去るレッドと「直系の怒鬼」の姿がヒュッと消えて、次の瞬間、空に一筋の光が流れる。多分、2人が光速で次の戦場に向かったことを示す表現だと思う。5秒ほどの短いカットだけど、真空波をレッドが刀身ではね返し、ヒィッツカラルドの手が切り刻まれ、2人が去るまでの流れが1カットに巧みにまとまっている印象的な場面。なのだけど、絵コンテでは2人の姿が消える瞬間までしか描かれていなかった! では、あの格好いい、空に光が走る演出は誰の発想なのだろうか。疑問が湧いた。

 また、そもそもこのシーンは、映像本編ではAパートの後半ではなく、頭の方にある。つまり完成映像と絵コンテでは、若干シーンの並び順も違っているのだ。絵コンテでは、諸葛孔明と混世魔王樊瑞との会話シーンの間にこの場面が挿入されていた。

 そのような発見があったので、Bパートも含めて、第7話全体の絵コンテをいつか見てみたいなーと改めて思った。

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