『アニメ・ファンタジスタ・ジャパン2024』「新時代の作画――美術・撮影・3DCG」の感想

アニメ・ファンタジスタ・ジャパン2024のメインステージで行われた7公演のうちの1つ、山本健監督とちな監督の対談「新時代の作画――美術・撮影・3DCG」を観に行った。今年生まれたばかりのアニメイベントであり、会場もホテルのワンフロアと小規模、かつトークイベントは観覧有料にも関わらず、観客が100人ぐらい居てびっくりした。

 

 ちなさんは折り目正しいブルーのビジネスシャツ(※以前に井上俊之さんの出版記念イベントにゲスト出演した時と似た格好)、山本健さんは『化け猫あんずちゃん』のTシャツを着ていて対照的な雰囲気だった。

 ぼくは『劇場版 ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』を観て山本健監督に興味を持ったのだが、いろんなインタビュー記事を読んでみたところ、「映画の印象」と「インタビュー記事から受ける印象」が頭の中でどうにも一致しない。その引っ掛かりが、今回イベントに参加した動機のひとつだった。
 そしたら、イベントの中で「こんなテンションの低い人が、あんな熱い『ウマ娘』を……」みたいなニュアンスで山本さんがいじられる場面を目撃したり、大学時代の先生にも描く絵とのギャップを指摘されたことがあるみたいな逸話が聞けたり、何よりメディア越しではないリアルな姿を目の当たりにすることができたので、個人的な引っかかりに対する答えが得られてよかった。

 

 対談の最初に司会の高瀬康司さんが経歴を尋ねた。山本さんは武蔵野美術大学で油絵を学び、サークルで自主制作アニメを作っていたという。その後、Production IGで動画を2年経験して原画に昇格。原画は黄瀬和哉さんに見てもらっていたという。いきなり原画になるのではなく、動画を2年やった経験は演出の仕事に役立っているそうだ。
 ちなさんの方は、いろんな美大の学生(渡邊啓一郎さん、谷田部透湖さん、山本健さん等)が自主制作アニメを作るブームが10代の頃にあり、それを見た影響で憧れて武蔵野美術大学に進学したという。しかし入学した頃には山本健さん達はもう大学には居なかったり、アニメ業界の方が楽しそうだったりで半年で中退したそうだ。ちなさんは山本さんとの世代差を「0.5世代上」と表現していた。
 話を聞きながら、「そういえばあの頃、周りの作画マニアの人たちが美大生の自主制作アニメに騒いでいた気がする!」と思い出して、当時何が起きていたのかを今さら理解した。

 トークでは、お二人の上の世代にあたるWEB系世代の『鉄腕バーディー DECODE:02』の作り方との比較や、伍柏諭さんとの比較からお二人のスタンスに迫った後、ちなさんと山本さんの共通点・相違点を浮き彫りにするかたちで進んでいった。参考映像を観ながらとかではなかったが、聞いていてとても分かりやすかった。
 世代論としては、「絵が描ける仕事」としてアニメーターを選んだ世代と、その枠組みに収まらない新しい世代との違いの話が面白かった。後者はデジタルの自主制作アニメで作画から色彩設計、3DCG(Blender)、撮影(AfterEffects)まで全工程を経験した上で、はじめから演出志向を持ってアニメーターの仕事を選んでいるという違い。そこから、現代の「作画出身の演出家・監督」がかつてのそれとは少し性質が異なる、という視点を得ることができた。

 

 山本さんの意見を聞いていて印象に残ったのは、商業アニメのある種の「安っぽさ」を大事に考えているところ。技巧的な絵や、美術館にあるような高級な絵は見る人を突き放す感じがあるとした上で、商業アニメの絵に宿る、工業的な作りであるが故に生まれる「親しみやすさ」を肯定的に語っていた。美大出身の腕利きアニメーターみたいな人がそういうことを言うのは意外に感じて、そういう人がアニメ界に居てくれてよかったと思い、ホッとした。
 また、アニメにおける「品質が高い」という言葉の指す範囲が狭いことに違和感を表明していて、リッチなアニメだけが絶対の正義じゃないはず、みたいな考え方にも共感できた。
 そして、その思想的背景として、普通の商業アニメに反抗していた山下清悟さんへの憧れが出発点だけど、業界で仕事をするうちに芽生えた「普通の商業アニメもめちゃくちゃ良い!」という矛盾した気持ちを抱えているみたいな話も、非常に興味深く感じた。
 そういった、正解をひとつに絞らない姿勢は、スタッフを信頼の置ける知り合いで固めるよりも知らないアニメーターと組んでいろんな絵が見たいという、今回のイベントで語られた山本さんのスタンスにも通底しているなと感じた。(とはいえ『新時代の扉』では、重要な中盤のシーンを榎戸駿さん坂詰嵩仁さん、ラストは杉田柊さんに頼んだとも語られていた)。「作家性」に対する警戒感というか、作風のタコツボ化を警戒する慎重な態度も記憶に残った。

 あと技術的な話だと、『新時代の扉』では走りは「1歩=4コマ」という縛りをアニメーターに課したという話が印象に残った。1秒が24コマだから、1/6秒? あのレースのスピード感はそういうところからも生まれているのかな。他の『ウマ娘』は何コマなんだろう。
 山本健さんはアクション物の仕事を振られることが多いけど、大好きな恋愛物をやってみたい、みたいなアピールをされていて、それは是非観てみたいなと思った。

 

 以上はイベントで語られたことのごく一部でしかないが、アニメファンとして、学ぶことの多い内容でした。『アニメ・ファンタジスタ・ジャパン』が来年以降も継続して開催されると良いなと思いました。

(2024年8月12日@吉祥寺エクセルホテル東急7F)